腰椎椎間板ヘルニアをわずらい整形外科医を志す
私は大学4年生のときに、坐骨神経痛の症状に悩まされました。当時は大学病院であってもMRIはなく、造影CTと針筋電図で腰椎椎間板ヘルニアと診断されました。大学病院から紹介された整形外科クリニックにてブロック注射やリハビリなどの治療を継続して、少しずつ良くなりました。
日本大学医学部を卒業後、自身の成長を望み、学外の施設で研修することにしました。先輩から「外科医が成長するには、症例を積むことがもっとも大切だ」と聞かされていたので、入局当初からそういった研修が可能な日本医科大学整形外科学教室に入局。その後、日本医科大学付属武蔵小杉病院で研修医を経て助手となり、専門医を取得するまでの数年間は、大学病院と医局派遣の国公立病院などを行き来する生活を送りました。
大学医局時代に与えられた研究テーマは『変形性膝関節症における軟骨代謝』。通常の臨床業務をこなしながら研究するのは結構きつかったですが、3編の英語論文と10数編の日本語論文を書き上げました。私の、膝関節液中のコンドロイチン硫酸の研究は評価され、日本医科大学から医学博士を授与されました。その頃、変形性膝関節症のサプリメントとしてコンドロイチンが世間でも注目され始めていました。
国内外での外科手術見学や研修が大きな財産
それからしばらく経過し、山形県の北村山公立病院に部長として出向を命ぜられました。そこは周辺の3市1町の救急病院でした。「大変な所だよ」と聞いていましたが、高齢者の重症外傷や高度変形性関節症の患者さんが多く、大学病院でメインオペレーターを任せられていたものの、手術の実力がまだまだだと痛感させられました。
「もっと手術がうまくなりたい」と思いましたが、指導を仰ぐ先輩がいない環境でした。そのため、外に出て、手術が上手な先生にお願いして見学させていただきました。また、その当時は学会やメーカーが主催する手術見学・研修のツアーなどが催されていたので、そういった機会も利用し、国内のみならず、アメリカやドイツ、フランスなど海外でも知見を深めました。
国内外の手術が上手な先生たちは、急がずゆっくりと手術をされているのに、終わってみれば手術時間が短いという共通点がありました。その理由を考えてみると、迷ったり考えたりすることなく、一連の手技がルーチンワークになっているということです。40歳前後の外科医として伸び盛りの時期に、そういった手術を見学し、さまざまな研修を受けたことは、今でも私の大きな財産となっています。
2009年4月、圏央所沢病院の整形外科部長に
大学医局を退局し、都内の病院で整形外科部長として勤務していたときに、知人から「埼玉県所沢市に新しい病院が開設されます。発展性の見込まれる病院で整形外科手術ができる医師を求めているので、良いお話だと思いますよ」と声を掛けていただきました。一般的に整形外科手術は他科の手術よりも感染リスクが高いので、清潔な新しい病院は環境的にも魅力的でした。また、アメリカで見たようなワンチームで行う手術スタイルを、自分で立ち上げてみたいという願望もあり、入職させていただくことにしました。
当院は地域の救急患者に対応できる病院です。救急外傷では、大腿骨の骨折、胸腰椎の圧迫骨折、上腕や前腕の骨折など、高齢者に起こりやすい骨折が多いです。また、腰部脊柱管狭窄症や変形性膝関節症、変形性股関節症などの中高年の変性疾患の症例もよく見られます。近年は、当院で腰の手術を受けた数年後に、膝や股関節の人工関節手術を受けられるなどリピーターさんが増えている上に、そのご家族や親戚、ご近所や職場の方などが“口こみ”でいらしている実感があります。ここ数年は年間600件以上の手術を行い、当院開設以来、約13年半で7千件以上の手術を行いました。
大学病院や医局関連の病院では、指導医の教育や指示のもと、若い執刀医が手術を行うスタイルが一般的です。私もそういったなかで成長しました。一方、圏央所沢病院は民間病院であり、地域の方々に完成された医療を提供しなければなりません。当院では常に、1人の同じ執刀医と熟練した麻酔科医、その手術に慣れた専門知識のある看護師、優秀なレントゲン技師、使用する機械メーカーのスタッフ、というように、アメリカで見たワンチームに近い形で手術を行っています。そのため、スムースに要領よく、1日4~5件の手術をこなせるのです。さらに、リハビリなど術後のケア体制も整っています。
地域の方に当院をもっと気軽に利用してほしい
当院は中規模病院であり、他科の医師との横の連携がスムースであるのも特徴です。高齢の患者さんの大腿骨頸部や転子部骨折、胸腰椎の圧迫骨折などの術後には、誤嚥(ごえん)性肺炎や尿路感染症など特有の合併症が起こることもあります。そのような場合、すぐに内科や泌尿器科の診察を受けられます。また、高齢者の多発外傷では頭部外傷を併発していることも多く、救急搬送時すぐに脳神経外科医の診察を受けることも可能です。
そのほか、当院には最新のMRIや、高精度のCTも備わっています。初診日にMRI検査を行うこともあります。クリニックや接骨院・鍼灸院、マッサージなどに長年通院されているのに、はっきりした診断名を告げられていない患者さんには、一度当院で診察を受けみてみることをお勧めいたします。診断を聞いて、「もっと早く来れば良かった」という患者さんもいらっしゃいます。
患者さんのより良い運命のために尽力する
私は30代の終りの頃、アメリカのデンバーにある人工関節センターで、ダグラス・デニス先生の手術見学や研修を受ける機会がありました。研修の最終日、日本に帰る前日に、先生に悩みを相談しました。「今、私は術後経過の良くない患者さんを抱えています。どのようにしたらよいのでしょうか」そこで先生はおっしゃいました。「全力を尽くしなさい(Do your best)、患者さんの運命はあなたにかかっている」と。
ある高名なお坊さんの本に、「どこの家に生まれるかなどの天命は変えられないが、運命はその人の努力次第で変えられる」と書かれていました。外来で腰の神経の狭窄や関節の変形がひどい方に手術を勧めると、まだ70代であるにもかかわらず、「もう先が短いので、このままでいいです」と言われる方がいます。痛みは辛いものです。残りの人生を疼痛(とうつう)に耐えながら憂うつに過ごすのか。それとも、手術で疼痛を改善し、旅行や趣味を満喫して、楽しい余生を過ごすのか。ご本人の決断次第です。私が適切な手術を行うことで、患者さんの運命が良くなるように、全力を尽くしてまいります。