脳卒中を知り、予防することが重要

脳卒中を知り、予防することが重要



厚生労働省の2020(令和2)年の情報によると、日本人の死因順位の第1位は悪性新生物(腫瘍)、第2位は心疾患(高血圧性を除く)、第3位は老衰。そして第4位は脳血管疾患であり、いわゆる「脳卒中」です。今回は脳神経外科医の加藤副理事長に、脳卒中について『私たちが知っておくべきこと』を中心にお話しいただきました。



加藤副理事長


まずは脳卒中の予防を

―今回は脳卒中について教えてください。

脳卒中の原因は大きく分けて2つあり、簡単にいうと、脳の血管が詰まるか破れるかです。詰まると「脳梗塞」、破れると「脳出血」「くも膜下出血」という脳の病気になります。

そして「卒中」は、突然起こるという意味ですよね。脳卒中が疑われ圏央所沢病院・脳卒中センターに運ばれてくる患者さんも、すでに脳に損傷がある患者さんがほとんどです。脳は最善の治療を行っても治りにくいため、まずは脳卒中の予防をお願いしたいのです。

脳卒中の危険因子を知る

―なるほど。脳卒中を予防するには、なにをすればよいのでしょうか?

今回は脳卒中の危険因子(リスク)を5つほどお伝えします。まずはその5項目に気を付けて生活していただくことが、脳卒中の予防につながります。

【1】高血圧

加齢により血圧が高くなる方は多く、それを抑制するために食生活を見直したり、運動をしたりしますよね。高血圧が気になり病院へ行くと、医師の診断によって血圧を下げる薬が処方されることもあります。なぜなら、高血圧は脳卒中の最大の危険因子になるからです。

【2】糖尿病

糖尿病は血液中のブドウ糖(血糖)が増え続けてしまう病気なので、血管にもさまざまな影響がでます。また糖尿病にはさまざまな合併症があるのですが、そのひとつに「大血管症」というものがあり、脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈疾患、足病変(えそ)などにつながっていく危険性があるので注意が必要です。

【3】脂質異常症

健康診断では血液検査を行いますよね。そのなかで血中脂肪の値、つまりLDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、中性脂肪の値が高め、およびそれらの比率によって脂質異常症が疑われ、脳卒中のリスクにもなります。脂質異常症は遺伝性の場合もありますので、それは別の検査で確認できます。

【4】喫煙と飲酒

まず喫煙は体に良いことはひとつもないと申し上げておきます。タバコに含まれるニコチンにより動脈硬化が起こりやすくなるので、脳卒中の危険因子であるといえます。また、日々お酒を飲む方も注意してください。酒量が増えるにつれて、出血性脳卒中の発症率が高くなるというデータもあります。

【5】心疾患(心臓病)

心臓は血液を体じゅうに送る役目をしているので、心臓が正常でないと脳卒中のリスクも高まります。なかでも「心房細動」は心房に血栓ができやすくなり、それが原因で脳梗塞になるケースも少なくありません。心房細動は不整脈のひとつなので、ご自身の脈が規則的に打っているかを毎日手首でチェックしてみてください。

※首筋の脈は強く押しすぎないように注意

ほかにも、健康診断などで肥満を指摘された方、睡眠時無呼吸症候群の方、腎臓の機能が良くない方は脳卒中のリスクが高めなので、病院で診断を受けて改善を目指してください。



前兆があればすぐ救急車

―つぎに脳卒中の前兆について教えてください。

脳卒中を疑うべき3つのサインがあります。英語で「速い」を意味する「FAST(ファスト)」を頭文字として、ぜひ覚えてください。

「F」はFace(フェイス)で「顔」。歪んでいるように見えたら危険サインです。ご自身でなく、周囲の方がそれに気付くこともあります。

「A」はArm(アーム)で「手」。実は足も同様で、片側の手足に力が入らない場合も危険な状態です。

「S」はSpeech (スピーチ)で「話すこと」。ろれつが回らなかったり、言葉が出てこなかったりする状態も良くないのです。

「T」はTime(タイム)で時間です。遠慮は無用、上記の症状がひとつでもあれば救急車を呼んでください。脳卒中かどうかの判断は救急隊や医師が行いますので、悩む必要はありません。地域の話になりますが、当院がある埼玉西部の救急隊は脳卒中の対応に関しても優秀なので、119番通報をためらわないでください。


明暗を分ける4時間30分

―至急病院へ行くべき理由も教えていただけますか?

脳卒中の場合、一刻も早く治療を開始したいのです。患者さんの症状によって治療法は変わるのですが、脳梗塞の患者さんに対しては「rtーPA治療(血栓溶解療法)」や血管内治療(カテーテル)による「血栓回収療法」を行います。

rt-PA治療前
rt-PA治療後

rtーPA治療は「遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲン・アクチベータ(rtーPA)」という薬を注射し、血管に詰まってしまった血の塊(血栓)を溶かして、血液が流れるようにようにする治療法です。この治療は開始が1秒でも早いほど良好な結果が期待でき、劇的に回復する可能性もありますが、『発症から4時間30分以内でないと行えない』という制約があります。

なぜなら、脳梗塞は発症から4時間30分以上経過すると脳の血管がもろくなり、rtーPA治療を受けることで症状を悪化させてしまう可能性があるからです。そのため、救急車で運ばれてきた患者さんに対して、一刻も早くrtーPA治療が有効かどうかの診察・検査・診断を行う必要があります。

当院では、救急隊から脳梗塞が疑われる患者さんが運ばれるとの連絡を受けた時点で、私たち医師・看護師・放射線技師・薬剤師・臨床検査技師は受け入れ体制を即座に整えて、患者さんを待ちます。またrtーPA治療が無効な場合は、頭の血管にカテーテルを進めて直接血栓を取り除く「血栓回収療法」を積極的に行っています。


治療後のリハビリも大切

―そうなんですね。脳卒中の治療後についてもお話しいただけますか?

私たちはできる限りの治療を行いますが、まひ・しびれなどの後遺症が残ってしまうことがあります。その後遺症に対して、治療後できるだけ早くリハビリテーション(以下、リハビリ)を開始するのがベターです。当院では治療した医師の診断のもと、理学療法士などリハビリ専門職が患者さんに寄り添って行います。

すべての救急病院が脳卒中の治療後すぐにリハビリの対応をできるとは限らないので、別の病院に移ってからリハビリを開始するケースもあります。また、至仁会は数か所のリハビリ施設も運営していますので、長期に渡る後遺症のケアにもスムーズに移行できます。


ー脳卒中は治療で命が助かっても、後遺症があるということも覚えておきたいと思います。


「脳ドック」という予防策も

ーそれでは最後に「脳ドック」についてお伺いします。

当院では24時間脳卒中に対応でき、その治療で使用する最新鋭のCTやDSA(脳血管撮影)装置がありますので、脳の健康状態をチェックすることが可能です。脳卒中発症前に脳の病気を見つけて治療できれば、それに越したことはありません。

脳ドックの受診をおすすめしたい方は、親族に脳梗塞や脳卒中になった人がいる方や、すでに高血圧で薬を飲んでいる方です。また健康な方がどのタイミングで脳ドックを受けるべきか、統一した見解はないのですが、私は45歳あたりの受診を推奨しています。どなたも年を重ねれば、三大疾病といわれる「がん」「心臓病」「脳卒中」のリスクが高まるので、早めに対応して健康寿命を延ばしてほしいと思っています。


―今回は脳卒中に関する重要なポイントを教えていただき、ありがとうございました。

2021年8月、圏央所沢病院にて。



RECRUIT

  • やりたいことがそこにある。
    なりたい自分がそこにいる。

  • 5年後の自分を、10年後の自分を想像できるか?
    今やるべきことを、しっかりと、一歩づつ。

  • 稼ぐためにではなく、
    学ぶために働く。

  • 欠点に目を背けるか、
    弱点を「強み」に変えるのか。

  • 失敗しない道を選ぶのか、
    失敗から何かを学べるか。