地域社会で信頼される、介護と日本語の教育を。
2020年10月、所沢市若狭で開校した「所沢日本語学校」は、社会医療法人至仁会が設立した「介護職員を目指す外国人のための日本語学校」です。どのような学校なのか、長年日本語教育や学校開設に携わっている椛山(かばやま)校長にお話を伺いました。
日本で介護職に就く外国人のための学校
―「所沢日本語学校」は、至仁会通信11号でご紹介した「V&J Human Resource School(ベトナムにある介護と日本語の学校)」の姉妹校的な学校だと伺っています。
はい。現在は本校で学生を募っているのではなく、「Ⅴ&J」で6~8カ月間、日本の介護と語学を勉強した学生の留学先として運営しています。11名が在籍して熱心に学んでいるのですが、新型コロナウイルスの影響で11名ほど来日できない状況にあります。
一般的な「日本語学校」は、日本の大学や専門学校などへの進学を目指す外国人が語学を中心に勉強するところなのですが、本校は日本で介護を担ってくれる人材を育て、社会貢献も目指しています。運営母体が、地域に根差した信頼性の厚い社会医療法人ならではの特色でしょう。
―そうでしたよね。ほかの特長もぜひ教えてください。
「所沢日本語学校」は法務省が認可した「告示校」の一校であり、厳しい審査を通過しています。年間760時間以上授業を行うという規定があるのですが、本校では900時間近くの授業を行い、日本の文化に触れるような教育プログラムを組みました。また、学生たちが異国で安心して生活できるよう全寮制や奨学金制度を活用できるようにして、地域密着型の学校を目指しています。
学校と地域社会で育てたい
―具体的に、地域社会とはどのような形で関わっていきますか?
まず介護職に就くという目的があるので、至仁会が運営する病院や介護老人保健施設を訪問して現場でも学んでいます。今後、近隣の保育園・幼稚園・小学校とのコラボレーションも実施したいのですが、残念ながらコロナ禍で実現できていません。
そのほか所沢市の教育委員会や社会福祉協議会、ボランティアセンター、学生寮や学校がある地域の町内会の方々にもご挨拶しており、学生たちが地域のみなさんと関わりが持てるよう積極的に活動していきます。
愛情をもって教育する
―なるほど。次に介護の人材を国外にも求める状況について教えていただけますか?
ご存じのように日本の高齢化率は現在3割近く、この先その率はさらに高くなります。一方、介護職に就きたいと考える若者は少なく、勤務後3年以内に離職する介護職員は約75%であり、彼らの待遇を改善すべきなのですが、すでに人材不足です。
所沢市の介護系施設数を調べたところ、現在18カ所の特別養護老人ホーム、8カ所の介護老人保健施設をはじめ97カ所以上の施設があるのですが、多くの施設で定員の2倍以上の待機者がいるという状態で、近隣の市には定員の7倍の待機者がいる施設もあるのです。
―数字を見ると、かなり厳しい状況なのだとわかりますね。
はい。「所沢日本語学校」の存在意義をご理解いただき、そこで勉強して近い将来に日本で介護に従事してくれる学生たちを、単なる労働力としてみなすのではなく、地域のみなさんにも温かく迎え入れてほしいと思っています。
私たちスタッフは、日本語ができる介護人材をただ育成するだけでなく、お正月・節分・七夕などの日本的な行事を一緒に楽しみ、生活における悩みなどにも耳を傾け、その上で時間厳守など日本社会のルールや礼儀を伝えていきたいです。
留学生から学べるものも大きい
―私たちの生活は、多くの外国人労働者に支えられているという事実を忘れないようにしたいですね。それでは最後にメッセージをお願いします。
私は韓国・釜山の大学で学部・学科の開設や日本語教育のプロジェクト、東京にある大規模な日本語学校の開校や専門学校のコース開設などに関わってきました。微力ですが、これまでの経験を活かしながら地域貢献できるチャンスだと思っています。教職員も外部の研修などに積極的に参加して、さらにスキルを高めていければ良いですね。
ベトナムの留学生たちは、近年日本人が核家族化で失いつつある大切なものを、まだしっかりと受け継いでいるので、私たちが彼らから学ぶべきところも大いにあるのです。そのような気持ちで接すれば、彼らも私たちに寄り添ってくれるのではないかと思います。
―本日はいろいろお話しいただき、ありがとうございました。
2021年5月、所沢日本語学校にて。