「血糖値が高い」と言われたら、まず相談してみませんか?
2021年8月末から、毎週土曜日に圏央所沢病院で糖尿病内科の診療を行っている佐瀬利加(させ・りか)先生にお話を伺いました。「糖尿病」という病名はよく耳にしますが、実際にどのような病気なのでしょうか?無症状であれば大丈夫なのでしょうか?
別の病気を引き起こす糖尿病
―まず、佐瀬先生はなぜ糖尿病内科の専門医になられたのでしょうか?
私が大学2年生のとき、父が糖尿病をきっかけに心筋梗塞を患い突然亡くなりました。病院で糖尿病の治療を受けていた父を見て、自分が医師という立場で「患者さんに治療目的をきちんと伝えたい」と感じたことが大きな理由だと思います。また叔父も、糖尿病がきっかけで肺がんになり亡くなりました。血縁者に糖尿病の人がいる場合、自分自身も糖尿病になるリスクがあるので、糖尿病に関心を持ちました。
―糖尿病は実際、どのような病気なのでしょうか?
すい臓で作られるインスリンというホルモンが足りない、インスリンが効果的に働いていないなどの理由で血液中のブドウ糖濃度が上がってしまい、高血糖の状態が続くと糖尿病になります。そして糖尿病は、痛みや倦怠感などの自覚症状に乏しく気づきにくいので、「サイレントキラー」とも言われる「たちの悪い病気」なのです。
血液は全身に流れていますよね。ということは、糖尿病は全身の臓器に悪影響を及ぼします。糖尿病がベースとなり、さまざまな合併症を引き起こすのです。心筋梗塞や脳梗塞の原因が、実は糖尿病だったということもよくあります。そのため、糖尿病の患者さんに対して全身の検査を行うようにしています。
―無症状だからと言って糖尿病を放置すると危ないですね。
とても危険です。糖尿病になると免疫力が低下して、あらゆる感染症のリスクも高まります。感染症と言えば、新型コロナもそのひとつですよね。また糖尿病の合併症で、すい臓がんや肝臓がんなどの「がん」にかかり亡くなるということも、残念ながら少なくありません。糖尿病に特有の3大合併症(神経障害・網膜症・腎症)というものがありますので、ご説明します。
① 糖尿病 神経障害(神経疾患)
足先の神経細胞の代謝が乱れることにより細い血管がダメージを受け、神経に障害が起こります。症状としては、足先のしびれ・冷感・感覚の異常、激しい痛みを伴うこともあります。病状が進行すると、糖尿病足病変(えそ)と同じく足の切断を行うことも。
② 糖尿病 網膜症(眼疾患)
目の奥(網膜)の細い血管がダメージを受けることで起こる病気です。網膜をカメラに例えると光や色を感じるフィルムの役割をしていて、その働きが低下すると視力が落ちます。適切な治療をしないと、失明に至ることもあるのです。
③ 糖尿病 腎症(腎疾患)
腎臓の細い血管がダメージを受けることで起こる病気です。腎臓は、体に不要なものを血液から取り除き、尿として体外へ出すという大切な働きをしています。それが徐々に弱っていき、腎症が進行すると「人工透析」が必要となります。
※ 人工透析を開始する第1位の理由は糖尿病です
糖尿病の患者さんには、さきほど触れた「心臓病・脳卒中・がん」のほかにも、脳出血や脳梗塞が原因の「脳血管性 認知症」の発症も多いと言われています。さらに最近の研究では、糖尿病が「アルツハイマー病」の発症にも関与することがわかってきました。
また、糖尿病の患者さんは歯周病になりやすく、そして悪化しやすいのです。歯周病が重症であるほど、血糖値のコントロールが難しいこともわかっています。歯周病は歯肉の腫れや出血、口臭などの原因となり、歯が抜けてしまうこともあります。
糖尿病内科では、血糖値を下げるという糖尿病の治療と同時に、すべての合併症を食い止めるのが重要だと考えています。また症状がないので治療を止めてしまう患者さんも多いので、糖尿病の患者さんが病院へ来るべき理由を、私たち専門家はわかりやすく伝えなければなりません。
糖尿病の症状や種類
―健康診断のほかに、糖尿病に気づく方法はありますか?
代表的な糖尿病の症状を8つ挙げますね。家系的(遺伝的)に糖尿病のリスクがある方は特に注意してほしいのですが、気になる症状があればご相談いただきたいです。
① すぐにのどが乾き、水をよく飲む
② おしっこの回数が多く、量も多い
③ なんだか疲れやすい(原因不明の倦怠感)
④ お腹がすいてよく食べるのに、体重が減る
⑤ よく足がつったり、しびれたりする
⑥ 目がかすんだり、黒い点が見えたりする
⑦ ちょっとした傷が治りにくい
⑧ 男性の場合、性機能の問題が生じる(ED)
さらに、眼底検査で出血が認められ糖尿病に気づく、感染症を繰り返す方が泌尿器科や婦人科で糖尿病の疑いを指摘される、うつ病患者も糖尿病になりやすいと言われていますので、参考にしてください。
今や日本人の10人に1人は糖尿病であり、国民的な病気です。糖尿病は大きく「1型」と「2型」にわけられるので、簡単にご説明します。
1型糖尿病▼1型の大半は「自己免疫性」のもので、遺伝的要因とともに、さまざまな環境要因(内服薬・食事・腸内常在菌の構成・ミルクや母乳・日照時間など)が関係すると考えられています。子どもの糖尿病の多くは1型ですが、最近ではあらゆる年齢層に起こる可能性があるのです。
2型糖尿病▼2型は、遺伝的要因に「食べすぎ・運動不足・ストレス」といった生活習慣が加わり、インスリンの働きを悪くして発症します。また、糖尿病全体の約9割が2型です。食事の欧米化による脂質摂取量の増加、食物繊維の摂取不足、慢性的なマグネシウムの摂取不足などが発症に関与していると考えられています。
糖尿病は生活習慣の映し鏡
―糖尿病の治療は、具体的に何をするのでしょうか?
はい。糖尿病の患者さんに対しては、
◆食事療法
◆運動療法
◆薬物療法
で血糖値のコントロールを試みます。
糖尿病の診察日は、医師が検査の数値を見ながら薬の種類や量を決めて一方的に生活指導する日ではなく、患者さんの「生活を評価する日」です。数値が良くなっていれば患者さんの努力を評価し、悪くなっていればその原因をさぐり改善策を提案します。
―なるほど。もし病気の自覚症状がないのに「あれはダメ、これもダメ」と言われ続けたら、病院への足が遠のきそうです。
そうですよね。糖尿病の患者さんの中には、1日4回のインスリン注射を打たなければならない方もいて、「病気に振り回されて生きている」と感じる人もいます。そこを「自分の生活に合わせてインスリンを使いこなそう」と思っていただけるようにするのも、糖尿病内科の役目だと考えます。
海外ではすでに承認されているインスリンの経口薬があり、日本でも処方できる日がくるでしょう。インスリンの貼り薬も開発中だそうです。また患者さんのすい臓がインスリンを作れる状態であれば、「GLPー1受容体作動薬」を処方して週1回の使用により血糖コントロールが可能となる場合もあります。
糖尿病は多様な合併症を引き起こす厄介な病気ですが、なすすべもなく恐れる病気ではありません。各患者さんの病状や生活習慣を知り、治療できるのです。医師に与えられた診察時間だけでは患者さんから十分なお話を伺えないこともあるので、看護師や栄養士などの協力、つまり病院側のチームワークも必須です。
圏央所沢病院でも、これまでの経験を生かして治療を行いますので、糖尿病が気になる方、健康診断や特定健診などで糖尿病を指摘された方、以前治療していたけれども途中でやめた方など、気軽に相談してください。
2021年10月、圏央所沢病院にて。